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東京高等裁判所 平成12年(ラ)929号 決定 2000年11月21日

抗告人 X1

X2

相手方 Y1

Y2

主文

原審判を取り消す。

本件を新潟家庭裁判所三条支部に差し戻す。

理由

第1本件各抗告の趣旨及び理由

本件各抗告の趣旨はいずれも主文と同旨であり、抗告人X1の抗告理由は別紙「抗告の理由」記載のとおりであり、抗告人X2の抗告理由は、相手方Y2及び相手方Y1がいずれも本件遺産分割審判において代償金の支払を穫積X2に求めない旨申し出ていたにもかかわらず、原審判が代償金の支払を命じたのは不当であるというものである。

第2当裁判所の判断

1  本件は、相手方Y1の夫であり、また、その余の当事者の父である被相続人の遺産(原審判別紙遺産目録記載の土地、建物、株式及び電話加入権。ただし、同目録1(5)及び(14)記載の各土地は除く。)について遺産分割を求める事案である。

原審判は、土地及び建物について、それらの位置関係、現況及び利用状況を考虜し、南側3筆を抗告人X1の単独取得、北側7筆を抗告人X2の単独取得、中央部分の4筆及び2棟の建物を相手方Y1の単独取得としたほか、株式を相手方Y2の単独取得、電話加入権を抗告人X2の単独取得としたうえ、同取得によって生じる具体的相続分の不均衡について、抗告人X2をして相手方Y1及び相手方Y2に対し、抗告人X2をして相手方Y2に対し、それぞれ代償金の支払を命じるのが相当であると判断した。

2  原審記録によって認められる上記の各単独取得とされた土地及び建物の位置関係、現況及び利用状況を考慮すれば、原審判が採用した土地及び建物の割付方法自体は必ずしも不当とはいえない。

そのうえで、原審判は、上記遺産の各単独取得とともに抗告人らに対し代償金の支払を命じたものであるところ、遺産分割において相続人間で具体的取得分に過不足を生じた際に、特別な事由があると認められる場合には、遺産取得の超過分を代償金支払という債務負担の方法により清算することも許容される(家事審判規則109条)が、その際、代償金支払が債務負担を命じるものであることから、当然に、代償金支払に関する共同相続人の意向や、代償金支払を命ぜられる相続人に債務の支払能力のあることが上記「特別の事由」として考慮されるべきであることは明らかであり、代償金の支払能力に欠ける相続人に対し代償金支払を命じ得るのは、他の相続人がそのような方法による分割を積極的に希望する等の特別の場合に限られるとするのが相当である。

ところが、原審で、本件遺産分割において代償金支払の方法を採用することに対しての当事者全員の意向が明確に聴取された形跡はなく、わずかに抗告人X1が家庭裁判所調査官の調査に対して分割案のーつとして具体的金額を前提としないまま代償金支払に言及するところがある程度にとどまっている。のみならず、原審においては、原審判が代償金支払を命じた抗告人ら各自の代償金支払能力について全く審理されておらず、その能力のあることを認めるに足りる資料も認められない。また、原審判が支払を命じた金額及び支払期限に照らせば、抗告人らの支払能力に関する審理をしないまま代償金支払を認めることを容認すべき事情は更に乏しいものというべきである。したがって、抗告人X1において、支払能力に乏しい同人に対し代償金支払を命じた原審判を非難するところは理由がある。

また、抗告人X2が抗告理由として、相手方Y2及び相手方Y1がいずれも本件遺産分割審判において代償金の支払をX2に求めない旨申し出ていた旨主張するところ、その事実の有無ないし同相手方らの意向のいかんによっては、本件遺産分割の方法及び内容に大きな変更をもたらす可能性もあるというべきであるから、この点を審理することなく代償金の支払を命じた原審判は相当といえない。

その他、原審判が定めた分割方法以外の相当な分割方法を検討するについても、例えば、遺産の一部の売却というのであれば、当事者の意向をふまえた土地部分の特定さらには分筆の要否等に関する審理が必要であり、売却の方法としていかなる方法を選択するのが当事者にとって望ましいのかといった種々の点につき審理を遂げる必要があるところ、原審においてはこれらについての審理は全くといってよいほど実施されておらず、当審において、相当な分割方法を判断することもできないといわざるを得ない。

3  したがって、さらに審理を尽くさせるため、原審判を取り消したうえ、本件を新潟家庭裁判所三条支部に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 奥山興悦 裁判官 杉山正己 沼田寛)

別紙 抗告の理由

1 原審判は、別紙の通りの遺産の分割を命じた。

2 その遺産である土地の分配についても、抗告人の主張及び疎明資料の趣旨に反し、抗告人が利用処分するにつき極めて問題の残る分割であり、取り消しを求めざるをえない。

3 抗告人は、相手方Y1の相続分を譲り受けており、本来なら3分の2の相続分を有するものである。ただ、和解的解決を図るなら建物敷地を同相手方に取得させることもやぶさかでないとの趣旨から、その旨の事実上の確認に同相手方が取得することについて強く異議は述べないと述べたことはあるが、これは法律上の主張や権利処分の意思を示したものではない。

したがって抗告人が法律上有する相続分は3分の2である。

相続分譲渡の効力について特別な審理や調査は行われていない。少なくとも譲渡を無効ならしめるような主張について反論の機会は与えられていない。

4 もともと、相続人の間で相手方Y2、Y1の相続分の補填のため代償金を授受することなど想定されていなかった。最初、遺産である土地の分配については、ほぼ原審判が判断したような内容で大体の合意ができたのであるが、その後、隣接地に居住する親族からの要請があり、抗告人から土地の分配について要請したため合意にいたらず、審判に移行したに過ぎず、それ以上に金銭的精算まで想定されていなかったものであり、不意打ちの審判である。

5 抗告人は家を出ざるを得なくなったため、やむなくローンを組んで住居を購入したものであるが、給与所得者であり、その返済を円滑に早期に行うために本件遺産を取得して換金することも考えざるをえない事情である。まして、それ以上に代償金を捻出する余裕などない。これを捻出するには、取得した土地を売却し、経費や譲渡所得税を支払った残りからこれを支払うしかないが、そうなれば極めて不当な結果になる。代償金の額は機械的に土地の評価額だけを基準に算定しているが、実際に換金するには極めて困難な事情である。現在の不動産市況から換金は極めて難しく、時間もかかるし、評価額通りで売却できるか難しい。手取額が評価額より相当程度減額するのは明らかであり、そこから代償金を支払えば抗告人は本来の相続分より相当減額した金額しか得られない。売却のための時間、労力、減額のリスクは全て抗告人が負わなければならない。それなら売却した金額を分配する形態での決定の方がまだ合理的である。

もともと抗告人としても、他の相続人が金銭的負担をすることまでは予測できず、土地を取得することで、処分について支障が少ないと思われるものを希望しただけであり、もし金銭的精算が可能であれば、土地の取得ではなく、金銭的支払を受けることを希望する。

6 いずれにしても、本審判は実体に反して極めて不合理な内容であり、到底応ずることはできない。

現実の履行も不可能である。

よって抗告の趣旨通りの裁判を求めるため即時抗告の申立をします。

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